ハルジオン。

屋敷には、両親と自分、そして使用人の四人しか住んでいない。

それにしてはやけに広い我が家を、靖之は複雑な表情で見上げた。

『良家の坊ちゃん』

それが靖之のイメージだ。

でも、どこか満たされない。

心がすっきりと晴れない。

かと言って、取り立てて大きな不満があるわけでもない。

昔はけして裕福じゃなかった。

だからだろうか、色眼鏡で見られるのには抵抗があった。

自分は特別じゃない。

悶々とした気持ちのまま日々を過ごしてきた靖之がこの町に引っ越したのは、小学校三年生の春だった。