達也はしばらく考えていたが、やがて諦めた様子でそれを胸ポケットに入れた。

もう一度伸びをする。

澄んだ森の空気を胸一杯に吸い込み、息を吐き出す。

それを二度ほど繰り返し、達也は愛染窟の穴蔵から足を踏み出した。

――ザワリ、

と森の風が頬を払う。

振り返ると、ひときわ大きな楠が、達也を見下ろしていた。

「じゃあな」

馴染みのあるそのご神木に挨拶し、もと来た道を下り始める。