方位磁石でもあれば。

ふとそんなことを考え、すぐに達也は首を振った。

時計が止まり、山道がメビウスの輪のようにねじれている場所だ。方位磁石が効くはずもない。

「……ねえ!」

むっつりと考え込む達也の腕を、アキトが焦れったそうに揺さぶった。

「オジサン早く!」

「まあ待て。今山道に下りたって、またすぐ迷うのがオチだ」

「だけど時間が」

「分かってる」

達也はぐっと顎を引き、もう一度螢の泉に目を向けた。