ふと波打ち際に視線をやると、何者かが蹲っていた。見れば女人の様である。然も衣服は肌着だけで、裸同然だ。
(これは)
 小助は恐る恐る近寄った。透けて見える美白の柔肌と細く麗しい腕、柳腰だが肉付きのいいヒップラインが目に映る。
(死体か?)
 小助は吸い寄せられる様に女の手をとり、脈を測った。
(生きとる)
「おい、しっかりしろ!」
 小助は女の上半身を抱きかかえると、顔を見つめた。息を呑む程美しい。細面で眉細く睫長く鼻筋通り皺一つない。頭髪に光沢があり、丸で漆黒のダイアモンドである。    
(瞳はどうなっているのか)
 小助はそれを探求するかの如く、心地よい感触の女体に声をかける。
「大丈夫か?おい」
 返答はない。小助は女性の蒼白の顔色に、吾に返った。
(医者にみせんと)
 そっと女を砂地に置くと、小助は村に一人しかいない村医良玄の家に向かって、一目散に駈けていった。
 良玄は丁度朝飯の最中であったが、小助の話に飯を放り出して、海岸へ来てくれた。先ず女の容体を看た後、小助の家に運ぶことになり、小助は一つしかない布団に女性を寝かせることとなった。
 良玄の言によれば、女は海水を多量に飲んでいた。
「恐らく昨夜の雨で船が難破でもしたんだろう」
 と良玄は推測し、海水を全部吐かせた。女は途中で覚醒したが、頭が朦朧としているらしく、訳の分からない言葉を発して、直ぐ又寝入ってしまった。
「一体何処の人なんだ?」
 訝しがる小助に良玄は、
「怪我や病はないようだから、本人が起きるまで、安静にしておいてやってくれ」
 と言い残して、帰っていった。