思案を巡らせていると、ギィッ…やたらと耳につく音が聞こえた。
「おはようございます。仁菜さん」
そちらに目をやれば―…
信じ難い人物が黒髪を靡かせながら、コツコツ靴音を鳴らして歩いて来る。
その人物は私の前まで歩き、視線を合わせる様に腰をかがめた。
私はただ、目の前の人物に目を向けるだけ。
なんで?
どうして?
そんな感情が胸を占める。
甘ったるい話し方ではなく、前に見た明るい雰囲気とは明らかに違う。
鋭い目つきで私を蔑む様に見てくる。
そして、形の良い唇を開き言った。
「翔君と別れてよ」
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