「たとえ忙しくても娘の頼みなら、仕事なんて休むさ」



穏やかに微笑む壱成さんに、涙が零れそうになる。
“娘”と当たり前の様に言うから。



壱成さんが父親で良かった。
そう思える。



カコン



鹿威しの音が響く。



その瞬間、私の隣にいた翔が徐に座椅子から立ち上がった。



「相模さん。週刊誌の件は俺の不注意なんです。本当にすみませんでした」



深々と頭を下げた翔に私は困惑するしかなくて、服の裾を引っ張り座る様に促す。



だけど翔は頭を下げたままで、壱成さんに視線を向ければその穏やかな表情を携えたまま「座りなさい」口を開いた。



それに小さく頷き元の席へと座った翔は、壱成さんの動向を伺っている。



「…同じ業界にいれば、良い所も悪い所もわかる様になるんだよ。まぁ仁菜が泣いて過ごしているのなら、一発くらい殴ろうとは思っていたけど…その心配はなさそうだ」



私に視線を向けて“だよな?”同意を求めてくるからそれに静かに頷く。



『…翔がいなかったら泣いて過ごしてるけど、逆はないよ』



だってそれくらい翔が好きだから。
隣に座る翔の手をそっと握れば、ギュッと握り返してくれるから笑顔が溢れた。



「…そうか。なら安心だな。
タイミング的にあまりよくなかったが、今日は翔君にお礼が言いたかっただけなんだよ」


「え?」


『は?』


その発言に、私と翔の声が珍しく被った。