ザァンザァン
生ぬるい夜風と共に聞こえる波の音
ホテルの前に広がるのは海。
ホテルを出た瞬間からジワリと伝うのは、汗。
…暑い。
顔が熱くて少しボーっとする。
ホテルの灯りが砂浜にぼんやりと差し込み、なんとなく前が見えた。
きっと昼間に見れば綺麗なんだろう。
青い海は漆黒。
青い空も漆黒。
見上げた空には漆黒に浮かぶ星と月。
そんな頼りない光とホテルの人工的な光だけが、私達を照らしている。
柔らかい砂は歩きにくくって、足を取られながらも榎本さんの後を歩く。
彼はまだ何も言わない。
そのまま彼は―…
1歩、2歩、3歩
『ちょっ…榎本さんっ!?』
何してんのっ!?
ザブザブザブ
彼は漆黒の海の中に入っていく。
「たまには、いいだろ」
『いや、意味わかんないっ!なんで海に…?』
まだ酔ってんの?
行動の意味がわかんないよ!
膝まで海に浸かった榎本さんの腕を引く私までもが水浸しになる。
海特有の波が私のワンピースの裾を濡らす。
サンダルの中に砂が入って気持ちが悪い。
生ぬるい水は私と榎本さんの服を濡らしていく。
どんどんと。


