全員の視線がそのスタッフに注がれる。
だけど一瞬シーンとなっただけで、店内はまたすぐに元に戻る。
わいわい、がやがや。
「…な、にがっスか?」
大河は固まったまま、言いながら私をチラリと見てきた。
何…?
大河はさっきから、可笑しい。
結局聞けなかった、杏里ちゃんの話もあるし…
私は首を傾げたまま、スタッフと大河を交互に見上げる。
手酌で泡盛を注ぎ、そのまま豪快に飲み干した彼はダン!
グラスを机に叩きつけた。
「あんなの見たら泣くぞ」
「…はぁ、」
「お前ら知ってたのか?」
「…い、や」
彼は酔ってると思う。
大河の肩に手を回し、ぼそぼそと話してはいるけれど、近くに座る私には聞こえている。
だけど、会話の内容はよくわからない。
そして、大河は相変わらず歯切れが悪かった。
…やっぱり可笑しい。
チラチラと私を気にする大河は、何かを隠してる?
私に何かを聞かれたくない…?
「おい」
『…………』
「…仁菜」
『………はい?』
つらつらと考えていた私の隣、ガタリ席を立った榎本さんは私に目で付いて来い、合図する。
気分でも悪くなったのだろうか…?
大河を気にしながらも、歩いて店内から出て行く榎本さんに続き慌てて店を後にした。


