突如開いたドアに吃驚して榎本さんを見やれば、不意にお腹に回った腕。
そのまま引きずり下ろされる様にして車から降りれば
「後はそいつに聞いてもらえ」
ドアを閉めた榎本さんは、走り去ってしまった。
一体何が起きたのか、サッパリで、ただ目を見開いて走り去る榎本さんの車を見ていた。
「仁菜…」
頭上に落ちるのは、愛しい声。
今日の朝別れた愛しい人。
『翔…?』
どうしてここに…?
くるりと反転させられた私は翔の腕の中。
ジッと私を見る翔の額にはうっすらと汗が滲んで見える。
まだうっすらと明るい夏の夜。
日は沈みあとは夜になるのを待つだけの僅かな時間。
紫のグラデーションが綺麗で、思わず息をのむ。
気付けば遠くで蝉がジリジリと鳴いていた。
「榎本から連絡あった。仁菜泣いただろ…?」
『ふふっ…泣いた。私、バカだから』
私の目尻を触る翔に何故か笑みが漏れる。


