私はポケットからハンカチを出そうと手を入れた。

無い。ハンカチが無い。
ーしまった。忘れてしまった。
学校に行く前トイレに行ったんだ。
そういや弟が「おい姉ちゃん!ハンカチ忘れてる!!!」なんて言ってた。
無視したからな…。

また謝っておこう。
「…漫画一冊で許されるかな…。」
私はしばらく考えた。
顔がびしょ濡れだけどどうでもよくなった。


「あ~あ。今日はほんっと厄日だ…。そろそろ戻ろうかな…。」
私は出口に向かった。
「桐山さん!!!」
「え!?」
「っつ!!??」
ドンッという音が鳴った。
どうやら私はぶつかったようだ。


「すまん。前を見てなかっ…た。」
「桐山さん!!」


声の本人は、五十殿はやてだった。
少し息切れしている。

「おい、五十殿君どうし「すみません!!!!」
私の「どうした」という声は五十殿君のいきなりの謝罪によってかき消された。
五十殿君は状態を腰から45度ぐらいの角度に傾けている。

…変なところで常識あるな…。
私はははっと笑ってしまった。


「…?」
五十殿君は不思議そうに私を見た。
「ははは。五十殿君、頭上げなよ。最敬礼されるほど私は偉くない。」
「で、でも桐山さん怒ったじゃないですか…。」
「あれは怒ってない。…その…、恥ずかしかっただけだ!!!」
「…え?」
「だからさ、謝らなくていい。私はもう気にしない。」