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季節は夏の終わり。


握る掌に、じんわりと汗を感じる。

見上げた空は赤みがかっていて、それでもまだ空気は熱く、夏の終わりはまだ続くことを実感する。


目の前の家は、あの頃と何一つ変わっていなかった。

無駄に大きな門が、昔と同じ様にあたしを迎え入れる。


庭先から、子どもの笑い声が聞こえた。
次いで届く、夏の水音。


「ひろなちゃんだ!ねぇママ、遊んで来てもいい?」

斜め下から、待ちきれないという催促。あたしは微笑んで、「いいよ」と言った。

満面の笑みを残して、汗ばんだ手を離す。
自分の何倍あるかわからない程の大きな門を、必死に押し開けて駆けて行った。

夏風に晒された掌が、すうっと冷える。


玄関に続く石畳も、何一つ変わることなくあたしを迎えた。

ただ、思い出が優しく足を伝うだけ。