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街は今日も穏やかだった。


いつもすれ違う犬の散歩のおじさんや、うつらうつらしているクリーニング屋のおばあちゃん。
威勢のいい果物屋のおじさんから、色の綺麗なりんごをふたつ買った。

「真っ赤だね」
「あ、うまいよ」

豪快にかじりついた裕太を見て、あたしも真似してかじりついた。
じゅっと甘い汁が広がる。

「美味しい!」
「な」

手を繋いだまま微笑みあった。

昼下がりの優しい街に、ふたつのりんごの酸味が広がる。

ここには何もかもがありそうな気がした。

二人を邪魔するものは何もない。

何もない。


…不意に、裕太の足が止まった。

同時にあたしも止まる。

「裕太?どうし…」

見上げた裕太の顔は、笑顔じゃなかった。
ただ一点を見つめているそれは、どこか静かな表情で。

ゆっくりと、裕太の視線を辿る。