さっき買ったマルボロを取り出す。
久しぶりに吸ういつもと違う煙草。肺に違和感が満ちる。
煙を吐き出すと、どこか懐かしい気持ちになった。
ああそうか。この煙草は、お父さんが吸ってたんだ。
あの広いのに狭い家。あの家には、大学に入ってから一度も帰っていない。
帰らない理由は、ひとつじゃない。
ぼんやりと空に昇っていく煙を見つめていたら、不意にその煙と交わる煙を見た。
それを辿ると、コンビニ前に腰かけている人に辿り着く。
キャップを目深に被っているその人が吸っているのは、吸い慣れたマイルドセブン。
…もしかしたら、この人が最後のマイルドセブンを買ったのかな。
そう思いながら、携帯灰皿に煙草を捨てた。
「マルボロ、やっぱ合わないわ」
その独り言が、どうして口に出たかはわからない。
本当に無意識に口をついた。
まさかそれが運命の分かれ道だなんて、誰が気付いただろう。



