「…あれ?」
上を向いていたからか、視界が滲むことはない。
ただ静かに、あたしの頬には涙が伝った。
「おかしいな…何、泣いて…」
『朱音』
耳の奥、いや、身体の奥に残る声。
今側で呼ばれたのではないかと思うくらいに、鮮明に蘇る。
「…ふ…っ」
涙を誤魔化そうとして慌ててお湯を顔にかける。
でもそうすればする程に、涙は次から次へと溢れてきて。
止まらなくて。
「ゆ、た…。裕太。裕太…っ」
いくら名前を呼んでも、もう遅い。
どれだけ求めても、どれだけ願っても、もうあたし達の道が交わることはないのだ。
泣くのを我慢しなくてよくなった代わりに、あたしは世界で一番愛しい人を失った。
もうあたしは、裕太の側にはいられない。



