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「おはようございます」

お風呂の暖簾をくぐる時、少し訛りのある口調で話しかけられた。
腰の曲がったおばあさんから香るのは、昨日自分から流れた柑橘系のボディーソープで。
少しだけ孤独を紛らわすことができて、あたしは優しい笑顔で挨拶を返した。


温泉はものの脱け殻で、そこで初めてまだ朝早い時間であることを知る。
広い浴場に響くカラカラという不恰好な音と、朝日が躊躇することなく射し込んでいる風景は、なんだか凄く非日常的だった。

軽く体を流してからすぐに、あたしは露天風呂へと向かった。


風に微かに潮が混じる。

つんと透明な空気に包まれながら、あたしは湯気のたつ温泉へ体を浸けた。

じんと身体の芯まで温かさが伝わる。ようやく身体が覚めた気がした。

空を見上げる。

昨日裕太が見た星は、もう影も形もなくて。

朝日が昇りきらない空には、ただぽっかりと隠れきれていない月が浮かんでた。