「…朱音」
ふと、裕太が言った。
あたしを呼ぶ裕太の声。今まであたしは、何度この声を聞いただろう。
何度、求めただろう。
「…幸せに、なって」
それは裕太の感情とは遠い場所にある声の様でいて、それでいて一番素直な感情の様でもあって。
苦しい程に、胸の痛みが広がる。
「幸せになって。朱音は…幸せにならなきゃ駄目だ。それが俺の幸せだから」
でも、そう言おうとしたあたしの体を、裕太はきつく抱き締めた。言葉とは裏腹の様に感じる体の痛み。
それがこんなにも愛しい。
「お願いだから、そう強がらせて」
裕太のその声は今にも消えそうだったけど、でもあたしの中心にまでしっかりと届いた。
出しかけた言葉を飲み込む。同時に目頭が熱くなり、頬を涙が伝った。
落ちた雫石が裕太の腕に染み込む。
その涙にさえあたしは、嫉妬を覚える。



