ザンと遠くで波が鳴った。
そうして辺りに訪れた静寂。これが凪だと、微かに思った。
「…裕太」
あたしが静寂を壊す。
裕太が少しだけ頭を動かした気がした。
「連れてきてくれて…ありがとね」
我ながら落ち着いて言えたと思う。生乾きの髪の上を、小さな風が通りすぎた。
それは波をたたせることもできない程の、小さな風で。
「…ごめんね」
裕太が呟く。
今度はあたしが、頭を動かす番だった。裕太を見上げる。
「俺が守るなんて…口だけだったね。結局俺は、朱音を傷付けることしかできなかった」
月に照らされてる裕太の横顔。そんなことないと声を大にして言いたかったのに、あたしの声は張り付いて、ただ首を降ることしかできない。
そんなことない。あたしは裕太と居れて幸せだった。
そう言えないのは多分、過去形で話すことにまだ息苦しさを覚えるから。
わかってる。これはもう、終わりの旅なんだ。今から二人、駆け落ちをするわけでも何でもない。
そんな未来、あたし達には残されてない。



