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予想以上にお風呂は気持ちよかった。生憎今夜の露天風呂は男風呂の方だったのだが、普通の檜風呂であたしは十二分に満足だった。
海風が生暖かい。どこか夏の香りがする気がしたけど、自分の体から漂う柑橘系のボディーソープの香りがそう思わせるのだと感じた。
旅館の下駄に、海辺の砂が入り込む。さらさらとしたそれは、風呂上がりの足の甲に気持ちよく滑る。
目の前の海は漆黒だった。
同じ青でも昼間は空と海の境界線がはっきり見えるのに、夜の黒い世界の中では水平線さえ覚束ない。
なんとなくあたしは、こういう世界に親近感を覚える。
そう感じた瞬間に、嘲笑とも苦笑ともつかない笑いが微かにこぼれた。
…ああ、この世界は、あたしがずっといた世界だ。
裕太と共に求めてきた、世界だ。



