「俺、風呂行ってこようかな」
あまり美味しくはなかったがどこか家庭的な味がする夕飯を食べ終えて、裕太は立ち上がった。
「ここ、確か露天風呂あったよね」
「そうそう!楽しみだな」
「混浴だったら一緒に入ろうか」
「ははっ、いいね。昔みたいに髪の毛洗ってあげよっか?」
「朱音、洗い方雑なんだよな~」
「なによ~っ」、ふざけ合いながら、廊下に出る。「鍵かけてくから、先行ってて」、そう言うあたしに軽く頷いて、足音の響かない廊下を裕太は歩いて行った。
カチャリと鍵の閉まる音だけが響く。
…今日あたし達は、思い出話しかしていない。
幼い頃の、楽しかった思い出ばかり。辛い出来事は、何一つ口に出さなかった。
未来の事は、何も言えない。
だってあたし達に、未来なんてないから。
…冗談を言うことさえも、必死だった。



