ホタル



「…いいよ」

部屋から煙が消えた。裕太が窓を閉める。

「朱音になら、殺されてもいいよ」

二人の視線が絡み合った。裕太は窓際に腰かけたまま、あたしを見つめる。その瞳は、夢で見た哀しいものではなかった。

ただ、真っ直ぐで。



「本望だ」



…思った。
裕太は、覚悟ができてる。

生きる覚悟だとか死ぬ覚悟だとか、そんな大層なものじゃない。

ただ、この想いを貫き通す覚悟。
罪と罰を受け入れる、覚悟が。


裕太は立ち上がって、手を伸ばした。
その手はただ真っ直ぐに、あたしに向かっている。

あたしは座ったまま、ただその掌を見つめた。


「殺していいよ」


身体中の血が、ゆっくりと循環する。
裕太の声が、あたしの感覚を呼び覚ます。


罪はあたしだけのものでいいと思ってた。
罰はあたしにだけ与えればいいと思ってた。

でも裕太は、そんなこと望んでなかった。


『俺が朱音を守る』


あの時の言葉が、今以上体に染み込んできたことはない。


あれは、確かに合図だった。


二人、エデンの庭から追放される合図。



…あたしはゆっくりと、裕太に向かって手を伸ばした。