ホタル



「…朱音」

教室の入口で、背に平岡君の声が届いた。あたしはゆっくりと歩みを止める。


「…ごめん」


はっきりと、彼は言った。その声は、あの頃の平岡君のものだった。


あたしが救いを求めた、声だった。


視界が揺らぐ。熱いものが喉の奥から込み上げる。
下唇を固く噛み締めて、あたしは教室を駆け出した。


夕日があたしの影を伸ばす。


あたしを好きだと言った彼の笑顔が、夕焼けの残像に浮かんで、消えた。