背の夕日が微かに平岡君に注がれる。時間の止まった教室の中には、ただ立ったままの二人がいた。
「…キスしていい?」
頷くことはしない。見つめた平岡君が目を閉じることなく、あたしの唇に自分のそれを重ねた。
何も感じない。ただ、あたしの唇に平岡君の唇が重なっただけ。昨日の裕太のキスを思い出して、少しだけ肩が震えた。
キスをしたまま、ゆっくり唇が下がる。どこを見ているのかわからない虚ろな視線を泳がせて、あたしは抵抗するわけでもなく立ち尽くしていた。
平岡君が何をしても、昨日の裕太に重なる。そんな自分に吐き気がする。
「俺のこと、好き?」
首元で平岡君が呟いた。あたしは反応しない。ただ目を閉じて、この時間が終わるのを待った。
その瞬間、平岡君は思い切り離れる。肩が揺れて、あたしは目を開けた。
いつもと違う展開。微妙な空気がまとわりつく。



