ホタル




……………

重い体を無理矢理上げると、そこはただの暗闇だった。
物音ひとつしない。多分、真夜中なんだろう。

ベッドに手をついた。そこはひんやりとしていて、ああ、裕太はいないんだと思う。

いつもあたしが起きるまで、裕太は側にいてくれた。側にいて、あたしの髪を掬うように撫でて。

小さな虚無感を抱えながら、あたしはキッチンに向かった。


リビングのソファーには、やっぱり裕太がいた。
高い背を丸める様にして横たわっている。少し伸びた髪から覗く目は閉じていて、長い睫毛が一層長く見えた。

あたしはいつか裕太がしてくれた様に、薄い布団をかけてやる。起きるかと思ったが、裕太はびくともしなかった。

ほっと息をつくと同時に、視界がじんわりと揺れる。


『俺じゃ駄目なことくらい、もうわかってるんだ』