ホタル



「…朱音」

はっとして振り返る。キッチンの入り口には、裕太がいた。

いつかの、あの日の様に。

咄嗟にあたしは、目を反らして駆け出した。

すり抜ける前に固く裕太に手を掴まれる。

「っ、離して!」
「意味わかんないんだけど!」

突然の裕太の大きな声に、あたしの肩は震えた。
ゆっくり、顔を上げる。

「…俺、何かした?」

…哀しい。それはとても、哀しい表情で。

思わずあたしの顔も歪んだ。

あたしは裕太に、こんな顔をさせたかったわけじゃない。