ホタル



…言えなかった。

否定できなかった。

幸せすぎたから。
裕太の側が、幸せすぎたから。

それを否定するなんて、あたしにはできない。


握りしめた掌に視線を落とした。泣きたかったけど、泣くわけにはいかない。

そんなあたしを見て、平岡君はゆっくりと側に来た。
俯くあたしの耳許に、そっと口を近付ける。

「ねぇ、ばらされたくないよね?」

目を見開いた。唇が震える。

「大丈夫、誰にも言わないよ。…その代わり」

予想できた。次の、言葉が。

「俺と付き合ってよ、また。俺今もまだ、朱音が好きなんだ」

そっと平岡君の手が、あたしの背に回された。そのまま引き寄せられる。

「…好きなんだ、朱音」