…裕太と一緒に帰った次の日だった。話があると言われた時、確かに嫌な予感はしたんだ。
別れてからあたし達は、会話らしい会話をしていない。むしろ、向こうがあたしを避けていた。
無理もない、と思う。
嫌われても仕方ないと思ってたし。
平岡君には。
屋上に上がる階段の途中、平岡君はただ黙っていた。表情も読み取れない。それがただ、あたしの不安を増長させた。
『西!』
あの頃の笑顔が蘇る。
同時に胸が、痛んだ。
屋上は予想以上に寒かった。秋が深まっている証拠だろう。
容赦無く吹き付ける秋風に目を細めた時、初めて平岡君が口を開いた。
「俺、わかっちゃったよ」
余りにも脈絡のない話題提示に、あたしは戸惑う。
「え、何…」
「朱音の好きな人」
思わず引き出した笑顔が、一瞬で凍った。平岡君が振り向く。その目に、あたしは再び固まる。
「…裕太君だったよね、確か」
冷や汗がつうっと背筋を伝った。寒いはずなのに、汗が掌に滲む。
「昨日、二人で帰ってるとこ見たんだ。朱音の目…弟を見る目じゃなかった。…弟だよね、彼。そういうの、何て言うか知ってる?」



