そうだった。まさみさんは家の一番の古株で、あたし達が生まれる前から家に勤めてくれている。まさみさんだけじゃないけど、お手伝いさんが家に来てくれた初出勤の日は、あたし達は何かしらお礼をしてきていた。
そんなこと、すっかり忘れてた。
「ごめ…すっかり忘れてた」
「だと思った」
ははっと笑う裕太。裕太との関係で頭がいっぱいになってるあたしとは違い、裕太はちゃんと周りを見てる。今日だって、正当な理由があるからこうして待っていてくれたのだ。
浅はかな考えしかできない自分が恥ずかしい。
「じゃ、行こっか」
裕太はそう言い、あたしより少し前を歩き出した。あたしも小さく頷いてそれに倣う。
ふと、携帯のバイブが鳴った。あたしは何の気なしにチェックする。
瞬間、心臓が高鳴るのがわかった。少しだけ赤くなった顔を隠し、軽く裕太の背中を殴る。
裕太もまた落とすように笑いながら、「何買おっか」なんてはぐらかして。



