ゴツンと大きな音と同時に、裕太がドアを開ける音がした。顔を上げると、微かに裕太の気配が見える。
「大丈夫?」
「うん…ぶつけちゃった」
裕太は屈んで、あたしの前に膝をついた。思わず心臓が跳ねる。
「怪我なかった?」
「…うん、大丈夫」
近かった。二人の間には、さっきみたいな隔たりはなかった。目の前に、すぐ側に、裕太の体温を感じる。
あたしの心臓の音は、幸いにも豪雨の中に溶けていった。
「…ブレーカー落ちたのかな」
「いや…これは完全に停電だろ。隣の家も消えてる」
裕太が窓に顔を向けたのがわかった。外の自然の光が、ほんの少しだけ裕太の横顔を照らす。
あたしはただ、それを見つめていた。
…あの頃とは違う。
表情も、髪の毛も、肩幅も、骨格も。
裕太はあの頃の裕太じゃなかった。
小さな掌は、あたしを包み込むことができるくらいに、大人の掌になっている。
それらが全て、愛しくて。



