鮮明に覚えていた。雷の夜はいつも、裕太に側にいてもらったこと。大丈夫だよと言う声も、あたしの頭を撫でる、小さな掌も。
「…裕太の側が、一番安心したの」
目を開けて、言った。
「裕太の側にいると、怖い雷も聞こえなかった。…雷だけじゃない。いつも…怖いもの、辛いものは、裕太の側にはなかった。…裕太の側が、一番幸せだった」
小さな沈黙がドア越しに伝わった。雨の音が響く。カタカタと小さく窓が揺れた。
そっとドアに掌を近付ける。触れたのは確かにドアなのに、目を閉じるとそこには裕太がいて。
近いのに、遠い。
それはあたし達の距離。



