ホタル




……………

台風は今晩直撃するらしい。部屋に帰ると、英里からそうメールがきていた。
髪の毛を拭きながらカーテンを閉める。庭の木が狂った様に暴れていた。
遠くで光る雷鳴を確認して、あたしは思わず目を閉じる。

…雷、やだ。

ふいにノック音が部屋に響いた。誰だなんて、聞く意味がない。

「朱音?」

裕太の声が部屋に届く。さっきまで怖かった雷も、もう聞こえない。

「風呂、あがってんだろ?」
「…うん」
「開けていい?」
「だ、ダメッ!!」

全力で拒否した。スウェットの裾を握る。

「…何で?」
「だっ…て、」

だって、今裕太と二人きりになったら。
この豪雨に閉じ込められた狭い部屋で。
あたしと、裕太だけに。

「…とにかく、だめ」

自信がなかった。
理性を守れる、自信がなかった。

「…わかった」

裕太の小さな声に、あたしは顔を上げた。開かないドア。その代わりに、ストンという音がドア越しに伝わる。

「…裕太?」
「入っちゃダメなら、ここに座ってるよ」