「わかった」
『ほんと困るわぁ。仕事、まだそっちにも残してきてるのに』
はぁ、と溜め息が耳に届く。この溜め息を聞くのも久しぶり。
『じゃあ、そういうことだから』
後はよろしくね。そう言って電話は一方的に切れた。
しばらくツー、ツーという無機質な音を聞いていたけど、バカらしくなって子機を置く。
別にお母さんが家に帰らないなんていつものことで、あたしは大して驚いたりもしなかった。驚いたことといえば、この大雨は台風なんだということくらいで。
用件のみの電話にも、あの溜め息にも、もういい加減慣れてるし。
…天気予報、やってるかな。
さっきまで寝ていたリビングに足を向けた瞬間、キッチンのドアがガチャリと開いた。
思わず立ち止まって顔を向ける。
「…裕太」
「あれ、起きた?」
シャカシャカと髪を拭きながらキッチンに向かう裕太。格好とほのかに漂うシャンプーの香りから、お風呂に入っていたことが伺える。



