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ベルの音で目が覚めた。目が覚めたと言ってもただ目が開いただけで、頭はまだ夢と現実をさ迷ったままだ。
…電話?
無意識に携帯を取ろうと体を起こした拍子に、あたしの体からするりとタオルケットが落ちた。
それを見ている内にだんだん覚醒してくる。
ルルッ、ルルルルッ
…違う、この音は携帯じゃない。家の電話だ。
いつから鳴っていたのだろう。ようやく完璧に目の覚めたあたしはソファーから降りて電話の子機に向かった。
「はい、西でございます」
家の電話を取るときの決まり文句。小さな頃からそう教えられてきた。
『朱音?』
子機の向こうから聞こえてくる声。この声をあたしは久しぶりに聞いた気がする。
「…お母さん?」
『今日家帰る予定だったんだけど、台風で飛行機飛ばないのよ。だからこっちでもう一泊して帰るわ』
こっちってどっちだろう。そう思ったが敢えて聞きはしなかった。
お母さんの声の後ろに響くのは空港の独特のアナウンスやざわめきで。何処かの空港からかけてるんだ。



