一人になった家。
この家は、人はいないのに無駄に広い。
昔はそれが嫌で仕方なかった。だから家にいるのも嫌だった。
裕太もそうだったのかもしれない。よく、遅くまで二人で公園で遊んでた。
ゴロンとソファーに横になり、昔よくしていた様に膝を抱える。
瞼を下ろすと耳には雨の音。
さっきまで寝ていたのに、夢はもうすぐ側までやって来ていた。
雨の音が子守唄。
あたしはゆっくりと、でも確実に夢の中へ落ちていく。
…公園だ。
蝉の鳴き声が聞こえる。季節は、夏?
麦わら帽子をそっと取ると、目の前にしゃがむ裕太が見えた。
あたしと同じ、幼い頃の裕太。
あの赤い車を砂場で走らせていた。
手動の車。同じ場所を行ったり来たり。
『楽しい?』
夢の中の幼いあたしが聞く。
少しだけ顔を上げて、裕太は言った。
『…たのしくない』
『じゃあ、家帰る?』
『いや。ここに朱音ちゃんといる』
俯いてまた、同じ様に車を走らせる。
あたしもまた、同じ場所に砂の山を作り始めた。
ジーワジーワと蝉が鳴く。
蝉の声も、夏の香りも、汗も。
全てが鮮明な記憶だった。
二人だけの世界。
大人なんて、嫌い。



