ホタル



次第に周りがざわつき始める。あたし達も少しだけ離れた。

「帰ろうか」

裕太が手を取った。あたしは小さく頷く。

人混みの中歩きながら、自分の中で生まれた小さな想いに戸惑いを隠せずにいた。

裕太の背中を見る。広い大きな背中。その首筋。柔らかい髪の毛。


『俺だけのものにしたくなる』


「してよ」、と、言いそうになった。

裕太だけのものに、して。あたしだってそう。裕太の全てが欲しい。

あたしはどこまでも欲深い。手を繋ぐだけじゃ、側にいるだけじゃ、キスをするだけじゃ物足りなくなってる。

でも、それ以上って?

それって、どうなの?

あたし達は罪を犯してる。でも、偏見だと思うけど、キスまでなら赦される気がしてる。

まだ、越えてない気がしてる。

裕太もそう思ってるのかな。だから決して、あたしに触れないのかな。