ホタル


「いいんじゃない?可愛い」

裕太はそれを受け取り、あたしの頭にかざす。あたしは頭につけていたかんざしを取った。

「似合う似合う!!うん、スッゴい可愛いよ~。彼氏、買ってあげなよ!」

向日葵の彼女の大袈裟な程の誉め言葉よりも、裕太の手が微かにあたしの頬に触れていることよりも、あたしは『彼氏』という言葉に胸を高鳴らせた。

少なくとも彼女の目には、あたし達は恋人同士に映ってる。姉弟なんかじゃない。それが、彼女にとっての現実。

それが嘘でも、あたしは泣きたい程嬉しかった。

「500円でしたっけ?」
「うんっ」
「これください」

裕太は千円札を渡し、彼女は「ありがとー」と500円玉を渡した。袋はいいよね、という彼女に、いいですと答える裕太。

「いいの?」
「うん、プレゼント」
「…ありがとー」

裕太は器用な手先であたしの耳の上に椿を咲かせ、満足そうにポンッと手を頭に乗せた。

さっきよりも胸を張って裕太の手を握る。裕太も優しく笑って歩き出した。

一生枯れない椿が、この幸せをずっと見守ってくれるような気がした。