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お祭りは予想以上の人混みだった。あたし達の住む街よりだいぶ大きな街。そこのお祭りだから、これだけの人混みでも頷ける。
正直、人混みが嬉しかった。沢山の人達があたし達の周りにいる。あたし達を隠してくれる。
こんな事を思ってしまうということは、やっぱりどこかに不安があったのかもしれない。
それでもあたし達は、目一杯楽しんだ。あたしは一度も、裕太を弟と意識しなかった。
「わ、可愛い」
沢山の出店の中から、他とは少し違う出店を見つける。手作りのコサージュだろうか、色とりどりの花がテーブルいっぱいに敷き詰められている。
「どれでも500円だよ。ぜーんぶ手作り」
パイプイスに腰掛けたお姉さんが、人懐っこい笑顔でそう言った。お姉さんのワンピースにも大きな向日葵のコサージュがついていた。
「欲しいの?」
「んん~、どうしようかなぁ…」
「お姉さんの浴衣に合うのは、これじゃない?」
向日葵の彼女は、あたしから見て右寄りにあった大きな椿のコサージュを手にとった。確かにあたしの浴衣の色と、ぴったりだ。



