そう言いながら、裕太はもう一度手を伸ばした。しゃくりあげながらあたしはそれを握る。
「泣くなってば」
「うぇ~、だって~」
苦笑しながら裕太は歩き出した。あたしも涙を拭いながらついていく。
裕太はあたしより大人だ。
あたしよりもちゃんと色々考えてくれてる。
「怒ってると思ったの?」
「うん」
「ごめんね、ちょっと露骨すぎた?でも…気引き締めとかないと、すぐ緩んじゃいそうだったから」
「え?」
軽く振り向き、微笑んで言う。
「多分朱音以上に、俺緊張してると思うよ」
裕太のその一言で、あたしの緊張が緩んだ。思わず吹き出す。
「絶対ないーっ!あたしのが緊張してるもん」
「いや、絶対俺」
「あたしだってーっ」
笑いながら、あたしはその日初めて裕太の隣に並んだ。そんなあたしを見て、裕太が優しく微笑む。
知ってる人は誰もいない。
誰もあたし達を姉弟だなんて思わない。
「お祭り、楽しみ」
返事の代わりに、裕太は繋いだ手の力を強めた。手を繋いだのは、あの夜の桜並木道以来かもしれない。
あの日とは違う。もうこの手を離さなくていい。
初めて恋人になれた気がした。



