ホタル



「ここまで来たら大丈夫だろ」
「え?」

眉毛を八の字にして俯いていたあたしは、裕太の言葉に顔を上げた。

「ん」

あの微笑みのまま、裕太が手を差し出す。その意味がわかって、同時に安心もあって、あたしは眉間にしわをよせることになった。

「朱音?」
「う、うぅ~…」

なんとも間抜けな泣き声。ポロポロと零れる涙を手の甲で拭いながら、あたしは言った。

「ご、ごめんねぇ」
「え?」
「おこ…怒って、ない?電車で寝ちゃったし、それに、裕太あんま、話さなかったし、あたし、やっぱり、何かしたかなとか…」

しゃくり上げながら、思った事をポツポツと呟く。突然泣き出したあたしに驚いて、また少し戸惑いながらも裕太は聞いた。

「え?俺が怒る?」
「だ、って、あたし、ずっと…お、重かったのかな、とか、自転車とか…」