ホタル




…「朱音、着いたよ」

裕太の声の次に耳に響いたのは、ざわざわとした空気。二、三回瞬きをして、ここが電車の中だとようやく気付いた。

「え…あっ、ごめ…っ!」

思わず飛び起きた。気付いたらあたしは、裕太の肩にもたれかかって眠っていたらしい。昨日緊張して、あんまり寝れなかったから。

「行こ、電車閉まる」
「あ、うん」

あたしが起きたのを確認して、裕太が立ち上がった。あたしも急いで後に続く。

随分人が増えたと思った。

人混みの中をスルスルと進む裕太に必死についていきながら、眠ってしまったことを後悔する。

裕太、怒ったかな。初デート中に寝るなんて、最悪かも。ただでさえ、なんだかあんまり機嫌よくないのに。

ヤバ、なんか泣きそう。

「朱音?」

駅を出た所で、裕太が振り向いた。なんとかついていっていたあたしも立ち止まる。

何人もの人達があたし達の横をすり抜けて行った。吸い込まれる様に、祭囃子に向かって歩いていく。