ホタル




……………

玄関にはもう裕太が待っていた。浴衣じゃなく、普通の私服。でもあたしは、醸し出す雰囲気に息が詰まった。

カランと下駄を鳴らし、玄関に向かって歩く。裕太もあたしに気付き、顔を上げた。

何も言わない。あの落とすような微笑みだけを浮かべている。

「行く?」

側に寄ったあたしに聞く。あたしは小さく頷いた。
玄関に立て掛けてある自転車を跨ぐ裕太。乗ったのを確認して、あたしは荷台に腰かける。

「浴衣大丈夫?」
「うん、平気」
「掴まっててね」

あたしが乗ったのを確認してから、裕太はペダルを踏み込んだ。さぁっと夏の風が二人を包む。
あたしは小さく裕太のシャツを掴んで、その風を感じていた。

裕太の背中は、思ったよりも広かった。

男の子の背中、だった。