ようやく解った。地元のお祭りには二人でなんて行けない。遠くの街なら、知人に会うこともないだろう。
普段デートなんてできないけど、そこでなら普通の恋人になれるかもしれないんだ。
なんだか嬉しくて、でも少しだけ恥ずかしくて、あたしは少し俯いて小さく頷いた。
裕太がどんな表情だったかはわからない。でも多分、あの笑顔だったと思う。
あたしの耳元に唇を近付けて「浴衣、期待してるね」と呟き、裕太は部屋を出ていった。
窓にトンッと背を預け、手のひらで頬を包むようにして冷ます。
裕太の残り香が漂う部屋に、あたしの心臓の音だけが響いていた。
「だからずるいって…。バカ」
部屋の外で風鈴が鳴る。熱い体が夏の訪れを証明する。
…夏休みが、始まった。
……………



