ホタル



周りには雨の音しかなかった。なかったはずだった。
気付いたらあたしの心臓の音もはっきり聞こえていた。

「な…に…、いって…」
「ずっと好きだった。朱音以外考えられなかった」

裕太以外を好きになれなかった。

「朱音が男と一緒にいるのも嫌だった。ホテルから朱音と男が出てきた日も、深見とかいう奴が朱音に迫ってた日も…ほんとは嫉妬で狂いそうだった」

裕太の彼女を、死ぬほど羨ましいと思った。

「こんな自分おかしいって、朱音は姉貴なんだって何度も自分に言い聞かせたけど…もういい。もう、止められない」

こんな自分おかしいって、裕太は弟なんだって、何度も自分に言い聞かせた。だけど。

「朱音が欲しい。朱音がいればいい。…朱音が好きだ」

裕太が好き。

「好きだ」

力強い裕太の腕が、苦しい程にあたしを抱き締める。

同じだった。裕太の思ってることは、あたしのそれと同じだった。

有り得ないと思ってた。そんなこと、絶対に。

「裕…太」

でも冷えきったあたしの体が裕太の熱を奪う度に、これは現実なんだと実感する。
ひとつ実感する度に、ひとつ涙が零れる。