ホタル




今思えば、裕太がお母さんに逆らったのはそれが最初で最後だった気がする。お母さんが何度も『お姉ちゃんって呼びなさい』と言っても、裕太は頑なに『朱音ちゃん』と呼び続けた。

やがてそれが『朱音』に変わった頃には既にこの気持ちは芽生えてて、あの時の事を少しだけ後悔することになった。

もしあの時あたしも裕太に『お姉ちゃん』と呼ばせてたら、こんな気持ちは芽生えなかったのかもしれない。あたしと裕太の間には、あまりにも姉弟を意識する要素が少なかった。

でももし今裕太に『お姉ちゃん』なんて呼ばれたら、きっとあたしは泣いてしまう。苦しくて切なくて、きっと。


いくらあの頃を思っても、もう引き返せないところまできてしまっている。

何度引っこ抜いても、種が存在する限りまた性懲りもなく芽吹いてくる。


もうどうしようもなかった。

どうしようもなかった。










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