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『朱音ちゃん』
あの日舐めていた飴の味すら、あたしははっきりと覚えてる。
『朱音ちゃんは僕のおねえちゃんなの?』
お気に入りの赤い車を抱えた裕太が、不思議そうな顔をして覗き込んでいた。
『…そうだよ?』
突拍子もない裕太の質問。あたしが答えると、辺りにイチゴミルクの香りが漂った。
『なんで?』
『だっておかあさんが、おねえちゃんってよびなさいって』
『じゃあそうよべば?』
『でもみんな朱音ちゃんのこと朱音ちゃんってよぶよ?僕だけなんでおねえちゃんなの?』
子どもの頃、あたし達の中には"当たり前"ということがなくて、全てにおいて理由を欲しがった。なんで?どうして?純粋すぎるいくつものクエスチョンマーク。
『それは…裕太よりあたしの方が早く産まれたからだよ』
『どうして?』
『知らないよ。おかあさんがそう決めたの』
あたしにだってわからないことを何度も裕太が聞いてくるから、根拠もない適当な答えを投げつけた。
あたしにだってわからない。裕太を弟だと認識していたかすら、未だに疑問だ。



