ホタル


思わず駆け出した。「朱音っ!」、キッチンの入り口の前で裕太があたしの腕を咄嗟に掴む。

お願い。止めないで。

「…離して」

止まらなくなるから。もう鍵が壊れてる。

「お願いだから…お姉ちゃんでいさせてよ。弟で…いてよ」


回らない思考のまま、玄関を飛び出した。どうやって裕太の力強い手を振り払ったのか覚えていない。もしかしたら、振り払う前に離したのかもしれない。


何を言ったのだろう。あたしはどこまで踏み入れた?

わからない。
わからない。

自分が泣いているかさえ、わからない。

きっと多分、空が泣いているから。


降り注ぐ、空の涙。


消えてしまえばいい。この雨の中、あたしごと全部。












消えてしまえばいい。














……………