ホタル



風が微かに吹く。木々が揺れる。あたしと平岡君の髪の毛も小さく舞った。

「でも…それでも俺、朱音の口から聞きたい。朱音の中には…誰がいるの?」


平岡君はあたしから目をそらさなかった。あたしも化石の様に平岡君を見つめた。でもその視界には幕があって、全てがどこかぼやけている。


『誰がいるの?』


平岡君の言葉を反芻する。答えが渦巻く。誰がいるかなんてそんなの、聞かなくてもわかってる。

残酷な答え。赦されない答えが。



「…朱音?」


幕がゆっくりとひいていくのがわかった。一枚一枚、それは涙となって頬を伝っていく。幕が取れるにつれて平岡君の顔がはっきりしてくるけど、それはすぐに滲んで見えなくなった。

「ごめ…なさ…」

止まらない。抑えられない。涙が溢れる度に、裕太への気持ちも溢れだす。奥底へ鍵をかけておいたのに、こんなにも簡単に溢れだすなんて。