……………
「ここでいいよ」
平岡君の一言に足を止めた。桜並木の曲がり角。桃色の代わりに夏色の緑が輝いていた。
もう夏なんだと実感する。桜が闇に舞っていた春はもうどこにもいない。
「じゃあ…気を付けて帰ってね」
あたしは微笑んで言った。違和感のないように、間違いのないように。
「…朱音」
ふいに平岡君が呟く。真剣な表情。どこかであたしは、小さく構えた。
「…朱音は結局、俺を通して誰を見てるの?」
…構えが小さすぎた。平岡君の一言は、あたしの心臓の一番奥を抉る様に突き抜ける。
何も言えない。声が出ない。
「ずっと…考えてた。始めはそれでもいいって、付き合ってたらいつか俺だけ見てくれるって…そう思ってた。朱音が俺を通して誰を見てようと、今側にいるのは俺だからって。朱音に触れられるのは…俺だけだからって」



