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家まで送るよと言ってくれた平岡君をそれとなく断り、あたしは一人で家路についていた。随分日が長くなった。時計は7時を示しているのに辺りはまだ十分明るい。
『…西…』
風が吹き、あたしの髪を乱す。軽く顔をしかめてそれを纏める。
『…朱音』
『え?』
『朱音って呼んで』
止むことを知らない風に抵抗するのも疲れて、あたしは髪を纏めることをやめた。なびくがままに。あたしの様に。
…どうしてあんな言葉を言ってしまったのだろう。
自分の無神経さに吐き気がする。
ベッドの中に、二人のあたしがいた。
冷静なあたしと、そうじゃないあたし。
押さえ込めた、あたしが。
冷静なあたしが諭す。『目を閉じては駄目。彼を見てなきゃ駄目』
でももう一人のあたしがそれをかき消す様に囁く。
『呼んで。あたしの名前を呼んで。そして、目を閉じて』



