最近言い聞かせている言葉。英里にも何度も言っていた。未来なんて何も見えない。そんな恋はもう疲れた。
「それで平岡君に逃げるんだ」
ペンを握る手が止まる。
「本当に平岡君が好きなら何も言わないよ。好きになろうとしてるんだったら何も言わない。でも朱音はただ逃げてるだけでしょ。自分の気持ち隠して逃げてるだけ。それ、多分朱音も平岡君も傷つくよ」
「…わかってるよ」
「だったら…」
「でもいいの。もういいんだって。それにあたし平岡君好きよ?優しいし、あたしのこと大事にしてくれるし」
「これ、提出してくるね」と言い立ち上がった。英里はそれ以上何も言わなかった。
教室を出る。廊下には夏の空気が満ちている。体育館の床が擦れる音。歓声。砂ぼこり。全てが非日常的に思える。
…英里の言う通りだった。あたしは、平岡君に逃げた。そんなことははなからわかっていた。
でもどうしようもなかったの。どこへも行けないこの想いをどうしようもなかった。逃げたくて、現実から目をそらしたくて、そこに平岡君が手を伸ばしてくれた。
握ってしまった、あたしは。



