コンコン、
「ごめんください、誰かおりませんか?」
『白雪姫はドアをノックしますが、誰も出てきません。
そして何気なしに回したドアノブがガチャリと音を立てて開きました。』
「あら、鍵が開いているわ。」
コツ、コツ、と館内で私の足音だけが聞こえる。
段々と慣れてきて、ちゃんと前を向いて話せるようになってきた…かな。
『白雪姫は、小屋の中へと入ります。
するとそこには……』
「まぁ、この方がこの家の方なのかしら?」
舞台左のセットで、ベッドの上で寝ている如月君がムクリと起き上がる。
キャァァァアアア!
「………姫、どうしたんだ。こんなところで。」
「まぁ、私のことを知っているのですか。」
驚くそぶりを見せる私に、如月君はベッドから立ち上がり私の手を取る。
如月君が姿を見せた瞬間、太陽君さながらのように会場が湧く。
そんな歓声に如月君は気にした様子もなく、自然調でセリフを紡ぐ。
如月君の性格から、あまり演技は得意でないと思ったけれど、役が無愛想な王子様、という役柄なので普段通りしていても全然違和感がなかった。
「婚約者の顔を、忘れるはずがないだろ。」
……前言撤回。
やっぱり、普段の如月君はこんなこと言わない。
劇の中なのに、やっぱり頬が熱くなってしまう。
『なんと、小屋の中で寝ていたのは白雪姫の婚約者である東の国の王子様でありました。』

